きみに会えないままでまた春が巡る
眼窩の闇すらその指先は残酷に愛した
たいせつになんかできないからここできみを憶えているよ
生々しい情欲ばかり停滞して指先を黒く染め上げる
くずれてゆく左目によみがえる残像はひとつきり
思い返せばきみの背中しか知らなかったね
むせかえるほどの静寂だけがきみを痛めつけている
ふみにじるように影ばかりたしかめて
幼い白い手の残像がいまでも僕を依存させている
濡れた睫をかきわけて瞳にキスをあげる
閉じ込めた思い出が溶け出して僕を蝕んでゆく
生ぬるい肌は絶望の温度にも似ていた、
ひどく愚かなきみを突き放せない僕こそが愚かしい
愛ではなかったよ恋ではなかったよけれど愛しているよ
傷ついた足先は生々しい赤に濡れていたのに
愚かな感傷に脚をとらわれてどこにも行けない
いとおしすぎて触れられぬ恋もあることをどうかおもいしって
その体温があるだけで泣き出しそうにしあわせだなんて
鮮やかなはずの記憶はいつの間にか劣化した
感情を告げる声はどうしてか呪詛にしかならない
肌をたどる指の感覚を残してゆくことさえゆるさないんでしょう
きみなしでだって生きていかれるから泣かないでいて
後悔だけがいつまでもそばで息をしている
触れる首筋にようやく明日への道を見つけた
そしてわたしは何度も同じ運命を繰り返し何度もあなたの血を浴びる
腐り落ちてく腕でそれでもあなたを抱きたかった
絶望のなかにしか救いをみつけだせないよ
きれぎれに見えるきみの断片がぼくらを泣かせている
光の海を越えられないままいきる
焼け落ちた地にきみの骨など残っていない
かなしいほどに君は後ろを振り向かず進むんだろう
呼吸を塞き止めた言葉の化石がくずれない
死に損なった夏が追い縋る
ゆずらないでよって泣くには暑い
ああどうしてきみはこの身すら捨て置けない
あいした言葉がひどく遠くて
きみの姿を長い間求めていたような気がするよ
得られぬ未来をひたすらに夢想した
肌のしろさ生ぬるさに欲情すら覚えて
ぼくはきみの中で永遠になりたい
ほんとうはすべて知っていたんだ
いつかもう一度きみに会いに行こう
残酷な純粋さをどうかくずさないでいて
何度くりかえしても祈りはひとつだけだった
あの声に盲目になることができたなら
おぞましい憎悪ですらきみはとらえられない
カナリアが息絶える瞬間の旋律
鮮やかすぎる残像ばかりが僕を支配する
星を渡ってきみのもとへゆくよ
砕くのは白の別離黒の死に際
なりひびく心臓に気付かないなんて嘘
カサブランカを敷き詰めて、葬送
離れた手が二度とその体温を知れぬのだとは
嘆くようにいつもきみを愛していたよ
絶望をわらうきみの美しさ(に、似た罪悪)
守るべきもののありかさえ知らないでしょう
散りゆくうつくしさにひたすら胸が軋むよ
執着と呼ぶには烈しすぎるそれは依存にも似て
ぼくのすべてと引き換えにきみのすべてをくれたらいいのに
繋いだ体温が泣けるほどせつないなんて
ねえきみはそれほどまでに別れを言えないひとなの
掴んだ指先さえどうにかなりそうな狂熱を覚えている
口先だけでぼくを捕まえて離さないくせに、
吐き出した感情の濁った色を認めずにいた
心臓がもどかしくきみへと向かって手を伸ばす
甘い恋なんて一生知らないままでいい
泣きながら願うのはうつくしい日々への回帰
残酷なきみはぼくがその手を手放せないことを熟知している
願うのは風化、おろかしいほどそれを求めたのはきみ
その指が全身を這い回ることばかり夢想して
さよならも何もかもをきみに預けた後悔はない
愛しい嘘をいつだって笑って吐き出すんでしょう
彼の微笑んだ表情がうつくしい未練になる
この身が朽ちることが代替になるならば喜んで
ただもういちどあなたのすべてをやきつけたくて
彼に置いてゆかれるもののひとつになりたくない
触れても触れてもさわれないの
手を伸ばしてつかみとる体温は壊れそうにつめたい
そうきっと世界すら超越したところできみは自嘲する
傷ついても傷ついても折れそうな足であなたは地面を踏みしめる
ヘンリエッタヘンリエッタ、じょうずな嘘を教えて
ただひとり、あなたの最後になりたい
喉の奥でわだかまる言葉をどうして告げてよいものか
きみしか映らない心をなくしてしまいたい
手に入りやしないのに泣き喚くことしかしらない
ひとみの残像はうしなったいまでさえ痛む
秘めた背中をうらぎれなかったよ
息が止まるほどの恋情に擬態
愛して、と懇願を残した彼女はきみを忘れてく
ながす涙のバランスがきたなく壊れる
べたべたした情欲のみぎがわに
求めてなんて言えない僕の愚鈍
けだものになりたくてかみつくよ
燃える骨のような苦々しくひろがる白
いつまでもさよならを憶えられないふりで
けれど最後に縋るのは結局きみなんだね(わらってしまうよ)
刻まれた温度は結局きみが残した刻印だ
足は血まみれいばらの靴でワルツを
きみがくれたくるしさかなしさいたみとまどいぜんぶあまいよ
ああおろかにものみくだしたそれは毒
にがく疼く感情の正体を暴きたてようとする
微笑んだ手の温度をそれでも抱きしめてる
瞬く間に消えてく夏の声(悲鳴、)
嘲りの裏に失望と絶望、まるで世界
おろかな赤だけじゃ死ねないよ
いつかあなたが見捨てたこの場所から
破り捨てた手紙の数とぼくのおもい
荒々しい指先が死んでもいいくらい幸福だった
いつまでも君だけを憶えて生きていかれない
握り締めて抱きしめてねわすれたくないよ
稚拙不器用見境なくくるしい
ゆるさない理性とゆるした感情
泣くほど好きだよ手放せなくてごめんね
彼のあかい血の甘さを知っている
さよならのしかたを(忘れてしまえばよかったのに、)
彼の唇から零れ落ちる言葉ひとつひとつが
狼は月に恋焦がれてせつなさ吼える
きみを縛るその黒髪を切り落としてしまいたい
その凛とした横顔はなぜだろうね脆弱で
残像だけ大事に抱きしめていくよ
いつかきみが朽ちたこの場所から
それでもぜんぶはゆるせない
愛の名を借りた傲慢を押し潰せなかった
無神経なことばを投げかけて傷ついたみたいに蹲る
きれいなあなたが僕なんかに憧れないでよ
愛さないで、正反対の強さで縋りついた
のみこむのはきみがつくりあげたオアシスの毒
赤を舐め取って笑うそれは最早狂気でしかない
神と世界とすべてを同一化していたたったひとりのきみ
優しい闇の中で踊るのはただひとつのワルツ
置き去りにされたこの場所で泣くことさえできなくて、
断罪に似たその声のありかを一体誰が気付いただろう
八月がもたらした恋情のような憎悪のような
きみが愛した骸とぼくの生きたからだ

彼の犯したすべての罪と僕の愛情