Yet




「死ぬつもり?」
「そのつもり」
ぎゅ、と手を強く握ると骨がよく見える。
細く盛り上がった筋肉や血管もよく見える。
冗談じゃないよ、と呟く肝心の彼の顔はあまり見えないのだけど。
「どうしてまた」
「悲しむのを見越して」
首を360度円を描いてきれいに回して、一回ジャンプする。
僕のさらさらした髪が揺れたのを自分でも確認できた。
心臓も血液も脳もいたって健康なのがよくわかる。
彼がキスをしてくれたら、と思う。
「・・・・僕が」
「そう、君とかが」
彼の唇は他人が思っているよりもやわらかいし、
僕の唇だってまんざらなものでもない。
だから僕らのキスは気持ちいいのだ。
ほかの誰とも成すことのできない僕らだけの僕らのキス。
甘くて冷たくて死ぬほどやわらかいキス。
それはあからさまに愚かだし、
あからさまに滑稽で、あからさまにわざとらしい。
「悲しみやしない、僕は」
「うん、知ってる」
精一杯爪先立ちして、伸びをして、空を睨む。
水専門のテクノクラートが作った空。
彼の大嫌いな空。
僕は彼の300パーセントを知っている。
彼だって、僕の123パーセントは知っていると思う。
だから彼と抱き合いたいと思う。
今も昔も。1秒前も。
「・・・・嘘だろ」
「さあ?」
ふざけるな、と彼は僕の胸を掴んだ。
かと思ったらすぐ離して、馬鹿野郎、と呟いた。
彼は泣いてくれるんだろう。
つまんないエクスタシーとくだらないエコロジーで。
僕は気持ちいいキスがしたい。
彼と、彼と、彼と、
僕と、僕と、僕とで。
「上澄みだけだ、いつも、お前は」
「そう。それで君は沈殿物なんだ」
笑えばいいんだ。
今、今だけは。
どうせ明日は泣くばかりだ。
僕だって彼だって、泣くだけだ。
百回キスして、百回抱き合って、
また嘘だろって確かめ合うだけだ。
ほんとは君が上澄みで、僕が沈殿物なんだ。
そんなの君だって知ってるじゃないか。
そんなの、はじめから全部理解してるじゃないか。
僕は君とキスがしたいんだ。
叶わないばっかりの、生きて死ぬまでのキスをしたいんだ。

たとえばそんな冗談で、たとえばそんなつまんないキスの百回

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