■東彼杵郡の民話・伝説


◆雨乞い菩薩(川棚町)
虚空蔵山の頂上には弘法大師がつくったといわれる虚空蔵菩薩がある。日照りの時はこの菩薩にお祈りしていたが、ある年の夏は全く効果がなかった。そこで菩薩の口に味噌を塗ると四日後に雨が降った。それからは日照りの時は毎回そうするようになったが、いつしか菩薩が辛さに慣れて雨を降らせなくなった。そこでさらに辛い海の塩水に浸からせようと、二里離れた平島の海まで運んでいった。七日続け、ようやく八日目にして雨が降ったという。


◆兄弟星(川棚町)
あるところに母親と三人の男の子供が住んでいた。母親は旦那の家に行き一日中働き、帰りに子供にと三個のおにぎりをもらった。しかし帰り道、山姥が現れ「握り飯を一つやれ」と言う。言われたとおり一つやるとすぐ食べてもう一つやれと言う。全部食べ終えると最後には母親も食べてしまい、そのまま母親に化けて子供の待つ家へやって来た。子供は山姥の話は聞いていたので、戸の隙間から母親の手を触ってみるとがさがさしている。「手に餅が付いているのだ。川で洗ってくる」と言って川へ行き、川海苔を付けて帰ってきた。すべすべした手に騙されて子供達は山姥を家に入れてしまった。山姥は一番下の子を抱いて寝た。夜になって、二人の兄弟はガリガリと音がするのを聞く。母親に聞くと「つけ大根を食っている」と言って一つ投げた。それは弟の指だった。二人は母親が山姥だと知り、「便所に行って来る」と言って部屋を出た。そして大きな樫の木に鉈で切れ目を付けて登り、てっぺんに隠れた。山姥が逃げたと知って探しに来たが、見つけられずきょろきょろとしている。それを見て弟が笑い声をあげたためばれてしまった。 「どうやって登った」と聞く山姥に「鬢付け油をつけて登った」と返す兄。実際にやる山姥だが、滑って余計登れない。「鉈で切れ目を付けるのだ」とついしゃべってしまった弟のせいで、山姥が木の上へと登り始めた。二人は逃げることができなくなったが、兄が「天の神様、金の鎖を」と言うと、本当に金の鎖が降ってきた。二人はそれに掴まって天まで逃げた。山姥も同じようにすると腐った綱が降ってきて、それを掴んだ山姥は綱が切れて落ち、死んでしまった。夜空に輝く兄弟星はこの二人の姿だと言われている。

※兄弟星…蠍座のラムダとウプシロンのこと


◆ぎゃっぎゃくびきの話
昔あるところにぎゃっぎゃくびきがお母さんと二人で住んでいた。ところがこのぎゃっぎゃくびきはお母さんにいつも反対のことをして困らせていた。そのうちお母さんが年をとって死んでしまった。お母さんは死ぬときに「川の中に埋めてくれ」と頼んだ。一人この世に残されたぎゃっぎゃくびきは今までお母さんに反対のことばかりしていたことを後悔し、遺言通りお母さんを川の中に埋めてあげた。
ところが雨が降ると水かさが増し、川の流れが速くなるものだからぎゃっぎゃくびきはお母さんが流されてしまわないかと心配で仕方なく、空が曇って雨が降りそうになると「ぎゃっぎゃく」と鳴くようになったそうだ。
(この話でぎゃっぎゃくびきが何か触れてないが、おそらく「ぎゃっぎゃくびき」のびきは蟇、ヒキガエルのことではないかと思う。)